建物を現物出資するという選択肢
私は小著で様々な節税方法についてご紹介してきましたが、今回はそれらの著書では触れなかった現物出資という方法についてご説明したいと思います。
現物出資というのは金銭出資に対応する概念ですが、有価証券とか不動産といった現物を金銭の代わりに出資するというものです。新規に法人を設立する場合だけでなく増資する場合も利用できます。
ところで法人を使った節税方法には①不動産管理会社を設立する方法と、②不動産所有会社を設立する方法の2つのやり方がありますが、この現物出資という方法は②の不動産所有会社の範疇に属するものです。
つまり次のように整理することができます。
<法人を使った節税方法の分類>
①不動産管理会社の設立・・・現金出資による方法のみ
②不動産所有会社の設立・・・現金出資による方法と、現物出資による方法に分かれる。
このうち不動産管理会社については既にご存知だと思いますし所有会社とは基本的考え方が異なりますので、今回は不動産所有会社についてだけ相互に比較する形でご説明したいと思います。
まず現金出資により不動産所有会社を設立する方法ですが、この場合には出資者は次のように分かれます。
イ.親だけが出資するケース
ロ.子だけが出資するケース
ハ.親と子の両方が出資するケース
これらのうち、いずれを採用するかはその時の状況によって異なりますが、「イ.親だけが出資するケース」は当事務所のお客様の中にはほとんどありません。あったとしても子供がいないケースぐらいです。
なお、子供が出資する場合で出資する資金を子供が持ち合わせていない場合には、親が贈与したり貸し付けたりします。そして貸し付ける場合には子供に支給する役員給与から返済してもらうことになります。
ところで、親が出資しますと出資の対価としてもらうことになる株式(有限会社等は出資という)が相続財産になりますが、ほとんどを役員給与として支給すれば評価額がそれほど上がりませんので、それほど心配する必要はありません。
また、もともと相続税がほとんどかからないという場合にはどなたが出資者になっても全く問題にならないわけです。
一方、現物出資による方法は現物を持っている人が出資者にならざるを得ません。例えば建物を現物出資する場合、建物を所有している親が当然に出資者になるわけです。
そうしますと出資の対価としてもらうことになる株式が相続財産になるわけですが、多額の役員給与を支給すれば法人にはほとんど資産が残りませんので、株式の評価もタダ同然というわけです。
それでは現金出資による方法と現物出資による方法では、どちらが相続税の節税になるのでしょうか?
これについては少し考えていただくと分かるのですが、ほとんどの場合、現物出資によるほうが有利になります。
その理由は現金出資による場合には法人が建物を購入するわけですが、その購入代金が建物の譲渡者である親のほうに移るからです。
通常は資金繰りの関係から長期に分割して支払うことになるわけですが、いずれにしても建物の所有者に資金が移り、それが相続財産として相続税の課税対象になってしまうのです。
ところが現物出資の場合には売買ではなく出資ですから購入代金を法人に支払うということはありませんので相続財産にはならないのです。
もちろん上述しましたとおり株式については相続財産となりますが、役員給与等として支払ってしまえば残るのは出資した建物だけになりますので、株式の評価額は徐々に低くなっていくのです。
なお現金出資による方法であろうと現物出資による方法であろうと、役員には原則として相続人が就任すべきです。
そうすれば支給する役員給与が相続財産から除外されるだけでなく、納税資金として貯めておくことができるからです。
いずれにしても、様々な節税方法のうち、いずれの方法を採用するか、あるいは組み合わせるかによって、結果が相当違ってきますので、必ずこういったことを専門にしている会計事務所に依頼するようにして下さい。後悔、先に立たずです。
なお現物出資による場合は出資する不動産の価格(時価)を不動産鑑定士に鑑定してもらう必要があります。