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2008年04月25日

中古アパートを購入と同時に修繕した場合の修繕費の処理は?

私はお客様の代理で投資用のアパートとか賃貸マンションを探すことがあるのですが、最近見付けた物件は、大々的にリフォームすることを条件としてサブリースしてくれるという代物です。

ちなみに、この物件の現在の入居率は40%程度であり、退去があっても資金がないのでそのままにしている部屋がかなりあるということです。

したがって、リフォーム代は全部で5000万円ほどかかるようですが、通常であれば明らかに修繕費として一時に経費処理できるものが半分の2500万円はありそうです。

それでは、ここで皆様にお聞きします。通常であれば何の文句もなく修繕費として一時に経費で落とすことができるものを、新規に購入してすぐに修理する場合もOKでしょうか?

なお、この物件の場合、取得した時点で登録免許税とか不動産取得税がだいたい1000万円程度かかります。これらは当然ながら租税公課として一時に経費処理します。

したがって、もし2500万円の修繕費を一括で経費処理するとなると、さすがにその年度は赤字になりますので、次年度以降にその赤字を繰り越すという手続きになるわけです。また、それに関連して予定納税していた所得税を還付請求することにもなります。

このようなことから、この不動産を購入したお客様の決算書・申告書は目立つことになりますが、この目立った処理について税務署は黙っているでしょうか? 

そこで心配性の私は税務署に確認することにしました。実際の電話は社員にやってもらったのですが、その結果をまとめておきます。

「A税務署」・・・事業の用に供するお金であるから建物等の取得価額に計上することになる。

「B税務署」・・・機能を追加するわけではないので修繕費として計上できる。

「C税務署」・・・定期的な修繕ではないし、資産価値を高めるわけであるから資本的支出になる(資本的支出ということは建物等の取得価額に計上するということです)。

「D税務署」・・・入れ替りの時に直すようなものは修繕費として計上できる。キッチン設備とか風呂を取り替えた場合には設備として資産計上することになる。

「国税局の税務相談室」・・・修繕の内容を個々に判断するしかない。もし、ご心配であれば資本的支出として処理すれば・・・。

いかがですか? それぞれの税務署は日本を代表するような規模のデカイ所ばかりです。私は社員から報告を受けたとき次のような質問をしました。

「担当者は自信を持って答えていたの? 年齢はいくつ位?」

これに対する社員の答は次の通りです。

「皆さん、自信満々でした。また年齢は50歳前後だと思います。」

全く同じ質問なのに担当者が言うことはそれぞれバラバラ。自信を持ってバラバラな意見を言うのですから困ったものです。

ところで、もし、同じ質問を税理士とか公認会計士にした場合、どうなると思われますか? 私は100%自信を持って答えられます。おそらく全員バラバラな答が返ってくるハズです。税理士を数百人抱えている税理士法人であっても全く変わりません。

税法の実務というのはこんなものなのです。医者にしたって病名が当たるのは55%程度だというし、テレビ番組の弁護士軍団も言うことがバラバラです。

要するに結論は分からないということですが、何らかの処理をしなければならないということも事実です。もし、否認されたら過少申告加算税とか延滞税を支払うことになります(ちなみに、過少申告加算税は支払っても損金に算入されません)。

なお、以上は個人が不動産投資をするケースなので税務署もイヤイヤながら電話相談に乗ってくれたのですが、法人の場合は相手にもされません。顧問税理士に聞いてくれ、でオシマイです。

今回は何となくモヤモヤとした結論になってしまったのですが、税務の実務の一端をご理解いただくためにご紹介しました。こんな問題を抱えつつ、明日の土曜日に物件を見に行くことになっております。

※皆様の中には、どうしてこんなに入居率が悪い物件を奨めるのか不審に思われる方もいらっしゃることと思います。そこで若干補足しておきますと、この物件は昨年まで3億円で売りに出されていたものが現在は2億1000万円まで下がっているのです。

また、この値下がり分で大規模修繕するわけですが、入居率を上げる自信はあるのです(修繕費の会計処理については自信がないのですが・・・)。

2008年04月10日

「遺産取得課税方式」の内容

前回は現行の相続税計算方式である「法定相続分課税方式」のあらましについてご説明しましたので、今回は新しい課税方式である「遺産取得課税方式」についてご説明します。

ただし、この方式は正式には平成21年度の税制改正において立法される予定であるため、現時点ではまだ詳細は分かっておりません。

しかしながら、外国では既に適用されている国もあり(ドイツ、フランス)、それらを参考にして概略でも把握しておいたほうが良いのではないかということで、その骨子をまとめておくこととします。

まず、この新しい方式は現在の贈与税の仕組みに非常に近いと言えます。贈与税というのはもらった財産から一定の基礎控除額(一般の贈与の場合には年間で110万円)を差し引いた残りの額、これを課税価格と言いますが、この額に累進税率を掛けて求めます。

単純明快なのですが、新しい方式である遺産取得課税方式も基本的な仕組みはこれと全く同じです。違うのは基礎控除額と税率表です。

このうち基礎控除額については現在の基礎控除額とほぼ同額になるのではないかと言われております。

例えば、法定相続人が3人であればトータルの基礎控除額は8000万円(5000万円+1000万円×3人)ですから、8000万円を3人で割った金額、つまり2666万円に近くなるのではないかということです。

2666万円ということは相続時精算課税方式の場合の控除額である2500万円とほぼ同じですから、2500万円になるかも知れません。

もし2500万円となった場合、相続税はどの程度になるのでしょうか? 相続した財産が5000万円で税率表が変わらなかったとしたら次のようになります。

 (5000万円-2500万円)×15%-50万円=325万円

税額の多寡は別にして、仕組み自体は非常にシンプルです。自分が取得した財産だけで相続税が計算できるからです。

このように新しい課税方式は相続人個々人に焦点を当てた課税方式であるということができます。一方、現状のものはどちらかといえば家族単位の課税方式であると言えるでしょう。

ところで、なぜ課税方式が変更されようとしているかと言えば、現行の方式ではいくつかの問題が生じているからです。

その一つが前回ご説明したように、同じ財産を取得したにもかかわらず全体の財産の多寡に応じて税額に著しい差が出るということ以外に次のような決定的な欠陥を内包しているのです。

つまり、ある相続人に特有な特例を適用した結果、別の相続人の税額まで減額されてしまうという構造的な欠陥です。

例えば、小規模宅地等の評価の特例というものがありますが、この特例を適用することによって全体の税額(相続税の総額)が減額されてしまいます。

本来であれば、適用要件を満たしている宅地を相続した人の税額だけを減額すればいいのですが、現行の方式では計算の仕組み上、どうしてもそうならざるを得ないのです。

このようなことから課税方式を変更しようとしているのですが、もし実際に改正されたとしたら遺産分割のやり方自体がかなり変わってくるものと思います。

例えば、現行方式であれば法定相続割合で計算しますので、どのように分けようとトータルの税額は変わらなかったのですが、新しい方式では分割の方法によって適用される税率が変わってきますので、今まで以上に遺産分割が重要になってきます。

いずれにしても、相続税に関する税制改正には十分な注意を払うようにして下さい。