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2010年03月25日

建て替えにあたっての税務上の注意点

前回は消費税の還付に関する実例を2つご紹介したのですが、今回はアパートを建て替えた場合の税務上の注意点について実例を元にご紹介することとします。

アパートとか貸家を建て替える場合には次のような様々な経費がかかりますし、建て替え中は収入がゼロになりますので、通常は大幅な赤字になります。

◎建物の取壊し費用・・・建物の構造とか所在地あるいは解体業者により異なりますが(近所にウルサイ人がいると解体作業を手作業で行なう必要がありますので、かなりの高額になる場合があります)、だいたい坪当たり3~5万円ほどになるのではないでしょうか?

したがって、例えば床面積が100坪の木造アパートで坪当たりの解体費が3万円であれば300万円になります。

◎建物等の除去損失・・・未償却残高のある建物等を取り壊した場合には、その時点で未償却残高を一時に経費に算入します。

例えば、建物とか附属設備の未償却残高が200万円であれば200万円を全てその年度の経費に算入することになります。つまり、それまで行なっていた減価償却はその時点で終了するということです。

ただし、白色申告の場合には不動産所得がゼロになるまでしか経費にできません。つまり不動産所得の赤字と他の所得を損益通算することはできないということです。

◎立退料・・・アパートとか貸家を建て替える場合には現在の入居者に立ち退いてもらう必要があります。

この場合はオーナーの都合ということなので立退料を支払うのが一般的です。それでは、この立退料はいくらほどになるのでしょうか? 

これについては千差万別なので一概にいくらとは言えないのですが、家賃の5~6ヵ月分位が一般的なのではないでしょうか? 引越し代とか住み替えのための諸費用の合計額がだいたいこのようになるということです。つまり実費精算です。

ただし、中にはゴネル方がいらっしゃるので、建て替え予定の場合には若干余計に資金を見積もっておく必要があります。

今年確定申告したお客様のケースでは最高額が140万円余りでした。家賃は43,500円ですから32ヵ月以上です。因みに最低額は3万円で平均は約23万円です(25人)。

また、立ち退きに伴い立退き業者に手数料を支払うのが一般的です(このお客様の場合は手数料が100万円チョットかかりました)。建設会社がやる場合にはサービスが多いのではないでしょうか?

なお預っている敷金についてはその時点で返還する必要がありますが、これについては当然ながら経費に算入することはできません。

ところで建て替えの場合には建物を取り壊すわけですから、入居者に原状回復義務はありません。当たり前です。

このように建物を建て替える場合には多額の経費がかかりますし、上述しましたとおり建て替え中は収入がありませんので、通常はかなりの不動産所得の赤字が発生します。

この赤字については他に所得があるとか建て替え物件以外に沢山の物件を所有している場合には損益通算することにより節税できるのですが、そうでない場合には通常は翌期以降に繰り越して、その時点の黒字の所得と損益通算することになります。

この制度を一般的に純損失の繰越控除と言いますが、赤字の所得を前年に繰り戻して、既に納めた税金を返してもらうこともできます。これを純損失の繰り戻し還付と言います。

ところで、この繰り戻し還付は原則として前年分しかできませんが、前年の所得よりも赤字の所得が多い場合にはどうすれば良いのでしょうか?

これについては控除しきれない額を翌期以降3年間まで繰越控除できることになっております。つまり両方の制度を併用できるということです。

上述しましたお客様のケースでは赤字の額が1500万円近くもありましたので、両方の制度を併用することとしました。

いずれにしても、これらの制度は青色申告者だけに認められている特典です。したがって皆様方の中に数年の内に建て替えを検討されている方がいらっしゃるのであればできるだけ早急に青色申告に変更されることをお奨めいたします。善は急げです。

2010年03月16日

消費税還付の2つの実例紹介

読者の皆様はご自身の確定申告、無事に終了しましたでしょうか? 申告期限は昨日の月曜日でしたが、私の事務所では先週の金曜日(3月12日)にどうにかこうにか終了しました。

できれば10日頃までには余裕で終わりたいと思っているのですが、昨年度はお客様がかなり増えたこともあり、予定より遅くなってしまいました(因みに、増えたお客様は全て私の本の読者です)。

ところで今回のブログでは今年の確定申告で消費税の還付請求をした2つの実例をご紹介したいと思います。

いずれも平成22年度の税制改正における歯止め措置の対象外のものです。つまり、これからも同じような事例であれば還付請求できるという事例です。

<消費税還付に関する2つの実例>

「その1・・・姉妹で自宅併用の複合ビルを建てたケース」

AさんとBさんは姉妹ですが(いずれも現在は独り者で、かなりのご高齢)、評価額の高い場所にそれぞれ若干の土地を所有しておりました。

このままでは相続税もそれなりにかかりますし、土地を遊ばせておくのももったいないということで自宅併用の貸ビルを計画、昨年の連休明けに完成・引渡しを受けることができたという事例です。

このビルは1階と2階の半分を店舗として第三者に、そして2階の残り半分は孫の家族に住居用として貸し、自分たちは3階に住むという構成になっています。

そして建物の持分は姉妹でほぼ半分ずつですが、こういった建物を建築した場合、建物に係る消費税の還付額はどのように計算するのでしょうか?

これについては、まず建物の床面積で利用区分毎に建築費等を按分し、それに係る消費税をそれぞれ計算する必要があります。

この場合、自宅部分は事業用ではありませんので当然ながら還付請求額の計算から除くことになります。

次に課税売上割合を計算するわけですが、店舗部分の賃貸料は孫に貸している住宅部分の賃貸料よりは圧倒的に多いわけですから、結果として課税売上割合はかなり高くなります。

そして上記で計算した建物に係る消費税(店舗部分と孫に貸している住宅部分)に、この課税売上割合を掛けた額が仕入税額控除額の対象となるわけです。

なお以上の計算は当然ながら姉妹でそれぞれ別々に行なう必要がありますし、消費税の還付を受ける場合には税抜き経理が必要ですから(税込み経理をすると還付を受けた消費税に対して所得税がまた課税されます)、それなりに手間がかかるというわけです。

これ以外にも細かくて複雑な処理がいくつかありましたので、担当者も5回ほど修正を余儀なくされました。

このように消費税の還付と言っても、複合ビルであるとか共有である場合には非常に手間がかかってくるわけです。会計事務所も意外と大変なのです。

「その2・・・弁護士が賃貸マンションを購入したケース」

次にご紹介するのは法律事務所を経営するある弁護士が、賃貸マンション1棟を購入したケースです。

ご承知だと思いますが、弁護士事務所とか司法書士事務所には数年前から過払金返還請求で沢山のお客様が行列をなしています。大手の弁護士事務所がテレビコマーシャルをガンガン出しているのも、そういったお客様を獲得しようとしているのです。

そういうわけで、弁護士事務所とか司法書士事務所は儲かって仕方がないのですが、そんな折、とある九州の弁護士の方から購入した賃貸マンションの記帳代行を依頼されたのです。

私の事務所では顧問契約について「経理は自分でコース」と「全ておまかせコース」の2つのコースをご用意しているのですが、ほとんどの方は「経理は自分でコース」を選択されます。こちらのほうが料金が安いからです。

ところが、この方は「全ておまかせコース」を選択されたのです。これはある意味、当然ですね。儲かって仕方がないわけですから、面倒な会計処理は会計事務所に丸投げするのが普通です。

それはともかく、この人の年収はここ数年8000万円前後です。年収ではあるのですが、2人のパートの方の給料が1人当たり120万円程度ですし、事務所も自宅併用でほとんどコストがかかりません(かなり地方の事務所です)。

そういうわけで事業所得も6000~7000万円程になるのですが、こういった方が賃貸マンションを購入して建物に係る消費税を還付請求した場合、どれほどの額が還付されると思いますか?

利回りが10%の2億7000万円程度のマンションを購入した場合、年間の家賃収入は2700万円です。しかしながら通常は期の途中で購入しますので購入した年度の家賃収入はここまでは行きません。

このお客様も9月頃購入されたのですが、1階の店舗部分が未入居であること、それ以外の住居部分も入居率が80%程度であったことから初年度の家賃収入は800万円ほどでした。

このようなことから課税売上割合は91%(8000万円/(8000万円+800万円))にもなったのです。これを建物に係る消費税に掛けた額が仕入税額控除の対象となりますので、ウンと還付されるというわけです。

なお、このお客様は昨年度より簡易課税方式を選択されていたのですが、基準期間(2年前)の課税売上高が5000万円を超えておりましたので、原則課税方式が強制適用されたのです。

もし5000万円以下であったとしたら簡易課税方式が適用され、還付額はゼロになるところでした。アブナイ、アブナイ。

因みに、この方の還付額は660万円ほどでしたが、これは本来収めるべき事業所得に係る消費税を控除した後ですから、全くオメデタイお話です。