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2007年11月27日

アパートを法人に売却する場合の注意点

今回はアパートを法人に売却するという対策についてご説明いたします。私の事務所では比較的よく行なっているのですが、まだまだ一般的ではないと思いますので、勉強の一環としてお読み下さい。

「アパートを法人に売却する」というと、なんか大袈裟な感じがしますが、法人に売却するといっても建物だけです。土地は通常除きます。その理由は土地まで含めると金額が多くなりますし、所得分散という目的から外れるからです。

ところで、なぜ法人に建物を売却するか分かりますか? 法人といっても相続人が設立したものですが、この対策をとる理由は税務上特に問題なく比較的多くの所得を分散できるからです。

ご承知のように不動産管理会社を設立して所得を分散するという対策がありますが、この場合には管理料が高いということで、税務否認を受けることがよくあります。

ところが法人に建物を売却するという対策で税務否認を受けることはほとんどありません。その理由は不動産所得自体が不労所得だからです。

不労所得というのは文字通り不労ということですから、働かなくても得られる所得ということになります。したがって、正式な手続きを踏まえて不動産所得の基になる物件自体を移転している場合には税務署としても否認のしようがないのです。

例えば、小学校の子供がアパートを相続したとします。金額が小さいとピンと来ないと思いますので、このアパートからの収入が年間3000万円あるとします。税務署はこの収入を否認できるでしょうか?

これについては、どうひっくり返っても否認できません。相続で取得したものであり、このアパートから得られる収入は不労所得ですから、この子供が全く不動産経営にタッチしていなくても、そこから得られる収入は子供のものなのです。

親の収入にすると、それこそ子供が親に財産を贈与したものとして贈与税がかかってしまいます。

要するに所得には労働所得と不労所得があり、労働所得については税務署はギラギラと目を光らせているが、不労所得については当初の取得段階以外、特に問題にしていないということです。

ちなみによく問題となる労働所得に青色専従者給与とか、法人からもらう役員給与等があります。

ところで、建物を法人に売却して所得を分散しようとする場合、建物の売買価格については十分に注意しておく必要があります。

基本的には建物の時価で売買すれば特に問題ないのですが、時価といってもそれがいくらになるのかは全く分かりません。神様でも分かりません。

そこで一般的には不動産鑑定士が鑑定評価するのですが、その評価額が実務上は一応時価として取り扱われています。

ところが、この鑑定評価額にしても別の鑑定士が鑑定すれば違った評価額になるのですが、神様でも分からない時価を一応鑑定のプロがやるわけですから尊重しましょうということになっています。

ただし、どんな場合にも鑑定士に鑑定を依頼する必要があるとしたら、コスト的にも大変です。そこで通常は簿価を時価として取り扱っています。

しかしながら等価交換で取得したものとか事業用資産の買換え特例で取得したもの等については通常よりもかなり簿価が低くなっておりますので、そのような場合には通常の方法で計算しなおす必要があります。

また、建物自体は存在するのに帳簿上は消えているといったことが実務上よくあるのですが、そのような場合には別途見積もる必要があります。

例えば、毎年の家賃収入が300万円もある物件をタダで取得できるというのではいくら何でもおかしいですよね。したがって、そのような場合にはある程度の譲渡所得税はかかりますが、時価をそれなりに見積もって有償にするしかありません。

このように、いくら不労所得だとしても取得段階でおかしい取引があれば税務署も黙っておりません。したがって、実行する場合にはこれらの税務実務について詳しい税理士に相談するようにして下さい。

2007年11月13日

物件別損益を計算してみませんか?

アパートとか賃貸マンションを複数所有している場合、皆様方はどのように記帳されているでしょうか?

「記帳なんかしていない!」という方もいらっしゃるかも知れませんが、記帳はしていても単に支払った額をそのまま記載しているだけ、という方が多いのではないでしょうか?

つまり、複数の物件を所有していても物件毎に分けて記載している方はマレだと思います。

会社のように経理担当者がいるわけではありませんし、確定申告する場合の損益計算書も物件毎に損益を分けることを要求しているわけでもありません。

このようなことから個人で経営している場合には普段は物件毎の損益が分からないのですが、次のような対策を実行しようとしますと、どうしても物件毎の損益がどうなっているのかを把握しておく必要があります。

例えば、①リフォームする、②建て替える、③売却する、④贈与する、といったケースです。以下、簡単にご説明しておきます。

まず①のリフォームですが、リフォームしようとしている物件がどれほどの収益を上げているかが分からなければ、そもそもリフォームの規模、内容が分かりません。

それほど儲かっていないにもかかわらず多額の投資をしたのでは困りますし、意外と儲かっているということになれば思い切ってお金をかけることができます。

次に②の建て替えですが、これも基本的に①のリフォームと同じです。なお、建て替えの場合は数年前から計画的に準備しておく必要があります。

アパート等、それほど規模が大きくなければそうでもありませんが、賃貸マンションとか貸ビルのようなものを建て替えるには立ち退き等の問題もありますので、できるだけ早い段階から計画しておく必要があるのです。

私のお客様の中には5年ほど前から契約更新時に通常の貸家契約から定期貸家契約に徐々に切り替えているところがあります。

また、③の売却ですが、これについては家計リストラのため第三者に売却するケースと、節税のため相続人とか同族法人に売却するケースに分かれます。いずれの場合であっても対象となる物件自体の損益とか収支状況を把握しておく必要があります。

そして④の贈与ですが、これは基本的に節税のために行ないます。当然ながら物件毎の収支が分からなければどれほどのメリットがあるのかが分かりません。

このように何らかの対策を実施する場合には、それを検討するための基礎資料が必要になるのです。

普段の記帳はドンブリ勘定でも構いませんが、こういった対策を実行しようと思ったら総勘定元帳等で各種の経費を物件別に分ける必要があります。もし、普段から何も記帳をしていないのであれば面倒でも領収証から調べることになります。

ところで実際に損益を分ける方法ですが、昨年度の損益計算書の数値を基にすれば良いと思います。その際、金額的に重要ではない項目は無視し、支払利息、減価償却費、固定資産税、修繕費、管理費等の重要項目だけを物件毎に分ければ十分です。

ただし、こういうと一般の人はビックリするほど大胆になるのですが、せめて10万円以上のものは拾い出すようにして下さい。こういう作業を通して無駄な出費が判明したりするからです。

そして、単年度の収支が計算できたら次に将来の収支も計算します。それほど重要性がなければ単年度の収支だけでも結構ですが、重要性がある場合にはできれば将来の収支も計算したほうが良いと思います。エクセルを使えば簡単に計算できます。

その際、減価償却費と借入金利子(+元金返済額)についてはエクセルの関数が必要になりますが、自分のためですからシッカリ勉強して下さい。