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2008年07月25日

相続税の納税方法に関する基本的考え方

今回は相続税の納税方法に関する基本的考え方についてまとめておくこととします。

まず、相続税の納税方法には次の3つの方法があるのをご存知でしょうか?

①現金納付
②延納
③物納

以下、順番にご説明いたします。まず現金納付ですが、現金納付というのは文字通り、現金で納付する方法です。額が少なければ「ゲンナマ」を税務署に持参して納付しますが、通常は銀行振り込みになります。

いずれにしても、現金納付するためには預貯金がなければなりません。もし不動産しか相続しなければ自分の手持ち資金で納税する必要がありますが、それでも不足する場合はどうすればいいのでしょうか?

このような時に便利なのが延納です。延納とは要するに分割して納付する方法ですが、当然ながら金利が付きます。この金利のことを税務上、利子税と言いますが、延納する期間等によって税率は異なります。

ところで延納というのはどんな場合でも利用できるのでしょうか? 例えば、預貯金がかなり有り、現金納付しようと思えばできる場合でも利用できるのかということです。

これについては、「できない」というのが答です。延納というのは現金で一括納付することができない人に対してだけ認められているのです。

それでは相続税が1,000万円で現預金が1,100万円の人の場合はどうでしょうか? 確かに現金納付しようと思えばできますが、もし全額を現金納付しますと100万円しか残りません。

これでは何らかの状況変化で資金ショートを来たす恐れがあります。そこで、このような場合には延納と現金納付を組み合わせるのです。例えば、現金で500万円納付し、残りの500万円は延納するといったやり方です。

このように延納するためには原則として現金納付できないという事情が必要ですが、ギリギリに考える必要はありません。ある程度、余裕を持たせることは可能です。

最後に物納ですが、物納というのは「モノ」そのもので納税するやり方です。一般的には不動産が多いのですが、有価証券のようなものでもOKです。

ただし、この物納も条件があります。要するに延納によっても納税できない場合に初めて認められるわけなのです。

税務署からすると物納で「ゲンブツ」をもらっても処置に困るのです。したがって、できれば避けたいのですが、ゲンブツしかないのであれば仕方ありません。そこでシブシブ許可しているというのが現実です。

それではここで1つ質問します。売却するとすれば買い叩かれるような土地で、相続評価だけは意外と高い土地を所有しており、できれば物納で引き取ってもらいたい場合、どうすればいいでしょうか?

金融資産がなければ税務署としても物納を認めざるを得ませんが、かなりの金融資産を所有しているものとします。相続人は配偶者と子供のケースです。

いかがですか? 上記の議論からすると物納は無理なような気がしますね。でも、やり方によっては物納を認めさせることができるのです。

その理由は現金納付が可能か否かは相続人毎に判断することになっているからです。

ご承知の通り、配偶者の場合には配偶者の税額軽減の制度によって1億6,000万円か、法定相続分までは一切相続税はかかりません。

そこで、配偶者が多くの金融資産を相続し、子供が不動産を相続すればどうなるでしょうか?

配偶者はいくら金融資産を相続しても上記金額までであれば相続税がかかりませんので納税不要です。一方、お子さんは相続税がかかりますが不動産しか相続しておりませんので物納するしかないのです。

もちろん不動産を売却して納税することもできますが、買い叩かれるような不動産であれば物納したほうが有利なのです(物納の場合は相続税評価額そのものが納付額となるからです)。このように遺産分割のやり方によっては優良な財産を残すことができるのです。

なお、物納を延納とか現金納付に変更することはできますし、また延納を現金納付に変更することも可能です。ただし、逆に延納を物納に変更することは認められておりません。

不動産を売却して納付しようと一旦延納申請していたにもかかわらず、その不動産が思ったような額で売却できず、ほとんどの財産が無くなってしまったという悲惨なケースがあります。

このような場合には一旦物納申請しておき、売却できれば現金納付に切り替え、もし売却できなければ物納として収納してもらえばよかったのです。

したがって、皆様方もこのような納税の基本的な仕組みだけはよく理解しておいて下さい。


2008年07月11日

最も相続税が安くなる配偶者の相続割合とは?

  最近は遺言書がブームになっているようですが、遺言書を書くためには当然ながら相続人にどのように配分すべきかを事前に決めておく必要があります。

 遺留分についてはなぜか小学生でも知っているのですが(学校で先生が教えているようです)、配偶者と子供にどのように配分すれば相続税が最も安くなるかについては話題にさえ上りません。

 私は税理士という立場上、お客様から遺言書の作成についてよく質問されます。その際、当然ながら一番重要視するのは、どのように配分すれば揉めなくて済むかということです。

 したがって、もし子供が1人だけの場合には基本的に揉めることはありませんので、この点に限っては気が楽です。

 ところが配偶者がご健在のケースで、一次と二次の相続税の合計額をできるだけ少なくしたい場合には一次相続での配偶者と子供の配分割合が問題になってきます。

 ご承知のとおり、配偶者が相続した額が1億6,000万円か法定相続分である2分の1か、いずれか多い額までは配偶者には一切相続税がかかりません。

 そこで、例えば相続財産が1億6,000万円前後のケースでは配偶者が全額を相続するケースがあります。その理由は一次相続では相続税が全くかからないからです。

 ところが二次相続において問題になります。 もし、1億6,000万円がそのまま残っていたとすれば相続税は2,300万円にもなるのです。

 もし一次相続で配偶者が法定相続分である8,000万円、子供が同額の8,000万円を相続した場合どうなっていたでしょうか? 次をご覧下さい。

一次相続時の相続税額・・・・・700万円
二次相続時の相続税額・・・・・250万円

 一次と二次の合計で950万円です。配偶者が全額取得するケースと比較しますと1350万円も安くなるのです。 このように、一次相続における遺産分割のやり方によって相続税はかなり違ってくるのです。

 ちなみに先程のケースで最も相続税が安くなるのは配偶者の相続割合が40%のケースです。この場合の相続税は880万円(一次840万円、二次40万円)となります。

 ところで、相続税の合計が一番安くなる配分割合は次のような様々な要因によって異なってきます。

<相続税が一番安くなる配分割合に影響を与える項目>

イ.被相続人が所有している財産の額
ロ.相続人の数
ハ.配偶者自身が既に所有している財産の額
ニ.一次相続と二次相続の間の期間(相次相続控除に関係・・・※)
ホ.一次相続と二次相続の期間中における財産の増減

※「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」とは二次相続での被相続人(配偶者)が、一次相続時に課せられた税額の一部を二次相続の相続人の相続税の額から控除できるというものです。二重課税を排除しようとする制度です。
1年以内であれば全額控除され、1年を超過する毎に10分の1ずつ減額され、10年を超えるとゼロとなる。

 このように様々な要因によって最適分配割合は異なってきますので計算は難しいのですが、トータルの税額にかなりの開きが生ずることになりますので、それなりの相続税がかかるようであれば、この点についても十分に考慮した上で実行するようにして下さい。