« 2008年08月 | メイン | 2008年10月 »

2008年09月25日

遺産分割では相続税だけでなく所得税も考慮すること

7月11日のブログでは、「最も相続税が安くなる配偶者の相続割合とは?」というタイトルで、1次相続における配偶者と子供の配分割合の考え方について書きました。

そこでは相続税のことだけを念頭に置いていたのですが、アパートとかマンションのような収益物件を所有している場合にはそれだけでは足りません。

遺産分割後の毎年の所得税のことも考慮する必要があるのです。ご承知のように所得税も累進課税方式になっておりますので、所得が多くなるほど税額が増加します。

例えば、所得が2倍になると税額が2倍になるのではなく、それ以上の税額になるということです。

このようなことから、収益物件が特定の人に偏らないように分割すべきなのですが、所得税というのは全ての所得を合算した額に対して課税されますので、不動産所得だけでなく、給与所得等を合計した額で判断しなければなりません。

もともと所得がそれほど多くないのであれば所得税も大したことはないのですが、所得税というのは時が経つに連れ、だんだんと増えていきます。

したがって、今は大したことがなくても徐々に増えていくわけですから長期的観点から考える必要があります。

ところで、最近まで、あるお客様の遺言書の原案をを作成していたのですが、次のような考え方を基本に置いておりました。なお、このお客様の家族構成は配偶者と子供4人です。

<遺言書を作成するに当たっての基本的スタンス>

1.後継者(長男)以外の3人のお子様には遺留分相当額を渡す(各自の自宅が建っている敷地)。

2.残りの財産を配偶者と後継者である長男に配分するのであるが、その場合の配分基準は次の通り。

①1次と2次の相続税の合計額をできるだけ少なくする。

②配偶者と長男の所得税の合計額をできるだけ少なくする。

③複数の銀行から借金しているが、同じ銀行からの借入金については同じ人が全額を承継する(同一の借入金について2人が相続するとなると手続き上、何かと面倒だという銀行からの要請があったので・・・)。

一見すると大したことはないと思われるかも知れませんが、このお客様は様々な不動産を所有されておりますし、不動産管理会社とか不動産所有会社といった対策を既に実施しています。

つまり、既に様々な家族に所得を分散しておりますので、このような状況の下、最適解を求めるのは意外と難解な骨の折れる作業になるのです。

私の場合は独自の専用ソフトを開発しておりますのでどうにかなりますが、それでもかなりの時間がかかりました。

ところで今回の遺言書では配偶者の分も一緒に作成しました。配偶者自身には資産らしきものはそれほどありませんが、ご主人の相続で取得することになる財産も考慮して遺言書を作成するのです。

この場合、どちらが先に亡くなるかは分かりませんので、ご主人が先に亡くなった場合はこうする、奥さんが先に亡くなったらこうするといった文章になります。

ところで今回の遺言書では相続人間での争いをできるだけ防止するという観点から信託銀行の遺言信託を利用することにしました。

現状ではほとんど問題ないのですが、念には念を入れて対処したということです。配偶者に係る遺言書を一緒に作成したのも少しでも問題の種を摘み取っておこうと考えた結果です(子供からすると、配偶者であるお母様の遺言書にも、お父様の考えが反映することに重要な意義があるのです)。

なお、先程、お客様の所から帰ってきたばかりですが、原案通りに納得していただき、来週にも公証役場で公正証書遺言を作成する予定です。

皆様方も少しでもご心配があるようであれば、ある程度のコストはかかりますが、遺言信託等を利用してシッカリした遺言を作成するようにして下さい。

2008年09月16日

所得税と相続税の二重課税はやはり本当か?

私の事務所のお客様はほとんどの方がアパートとか賃貸マンションを経営されています。
サラリーマンの方が兼業でアパマンを経営するというケースもあるのですが、どちらかと言えば相続対策でアパート等を建てたという方のほうが多いです。

ところで既にご承知だと思いますが、アパートとか賃貸マンションの場合、手取り収入は徐々に減少していきます。その理由はいろいろ考えられますが、主なものは次のとおりです。

<手取り収入が減少していく主な理由>
① 建物は時の経過と共に古くなっていくので収入自体が減っていく(家賃の下落と空室率の増加)。
② 建物は古くなるにつれ修繕費が増えていく。
③ 経費に算入できる支払利息とか減価償却費が減っていくため所得税等の税金は逆に増加する。

ところで最近、あるセミナーの聴講者から、自分の家計を診断してくれないかという依頼があり、昨日までいろいろシミュレーションしておりました(明日はお客様に報告する日です)。

このお客様の不動産所得は昨年度で7000万円を超えております。既に管理会社を設立し年間で1800万円程、その法人に支払っていますし、奥さんを専従者にして給与を年間で600万円支払っています。したがって、これらの対策を実行していなければ不動産所得はもっと増えるわけです。

これだけではありません。現在、別の箇所に新たに賃貸マンションを計画されているのです。私も現地を拝見しましたが場所も良く、かなりの所得が見込まれそうです。

このように書くと羨ましいと思われるかも知れませんが、このお客様の場合、適用される税金の限界税率は50%を超えております。限界税率というのは増加した所得に対して適用される税率のことです。

このお客様の場合、もしご自分が事業主になって賃貸マンションを建設しますと当然ながら所得が増えていくわけですが、その増えた所得に適用される税率のことです。

ところで限界税率が50%を超えると言いましたが、これは事業税がかかるからです。本来であれば所得税が40%で住民税が10%ですから限界税率は丁度50%になるハズですが、アパマン経営者の場合には事業税が別途かかりますので限界税率は50%を超えるというわけです。

このように毎年の所得に対してかなりの税金がかかるわけですが、もし相続が発生しますと今度は相続税が待っています。50%を超える税金を払った残りのお金に対して今度は相続税がかかるのです。

相続税というのは、相続を契機として、それまでの課税モレを防ぐという目的と富の再分配にあるとされています。もちろん、これらはそれなりに意義のあることですが、二重課税という本来あってはならない課税の大原則を踏みにじることにも繋がる場合があるのです。

そのようなことから相続税を廃止する国が増えているのですが、日本の場合には逆に課税の対象を増やそうとしているようです。

いずれにしても現実に課税が行なわれているわけですから皆様方もよく勉強して、少しでも税金を安くする方法を見付けるようにして下さい。なお、このお客様は建築士の資格をお持ちですが、私の著書を含めて既に100冊以上の本を読破されたようです。