遺産分割では相続税だけでなく所得税も考慮すること
7月11日のブログでは、「最も相続税が安くなる配偶者の相続割合とは?」というタイトルで、1次相続における配偶者と子供の配分割合の考え方について書きました。
そこでは相続税のことだけを念頭に置いていたのですが、アパートとかマンションのような収益物件を所有している場合にはそれだけでは足りません。
遺産分割後の毎年の所得税のことも考慮する必要があるのです。ご承知のように所得税も累進課税方式になっておりますので、所得が多くなるほど税額が増加します。
例えば、所得が2倍になると税額が2倍になるのではなく、それ以上の税額になるということです。
このようなことから、収益物件が特定の人に偏らないように分割すべきなのですが、所得税というのは全ての所得を合算した額に対して課税されますので、不動産所得だけでなく、給与所得等を合計した額で判断しなければなりません。
もともと所得がそれほど多くないのであれば所得税も大したことはないのですが、所得税というのは時が経つに連れ、だんだんと増えていきます。
したがって、今は大したことがなくても徐々に増えていくわけですから長期的観点から考える必要があります。
ところで、最近まで、あるお客様の遺言書の原案をを作成していたのですが、次のような考え方を基本に置いておりました。なお、このお客様の家族構成は配偶者と子供4人です。
<遺言書を作成するに当たっての基本的スタンス>
1.後継者(長男)以外の3人のお子様には遺留分相当額を渡す(各自の自宅が建っている敷地)。
2.残りの財産を配偶者と後継者である長男に配分するのであるが、その場合の配分基準は次の通り。
①1次と2次の相続税の合計額をできるだけ少なくする。
②配偶者と長男の所得税の合計額をできるだけ少なくする。
③複数の銀行から借金しているが、同じ銀行からの借入金については同じ人が全額を承継する(同一の借入金について2人が相続するとなると手続き上、何かと面倒だという銀行からの要請があったので・・・)。
一見すると大したことはないと思われるかも知れませんが、このお客様は様々な不動産を所有されておりますし、不動産管理会社とか不動産所有会社といった対策を既に実施しています。
つまり、既に様々な家族に所得を分散しておりますので、このような状況の下、最適解を求めるのは意外と難解な骨の折れる作業になるのです。
私の場合は独自の専用ソフトを開発しておりますのでどうにかなりますが、それでもかなりの時間がかかりました。
ところで今回の遺言書では配偶者の分も一緒に作成しました。配偶者自身には資産らしきものはそれほどありませんが、ご主人の相続で取得することになる財産も考慮して遺言書を作成するのです。
この場合、どちらが先に亡くなるかは分かりませんので、ご主人が先に亡くなった場合はこうする、奥さんが先に亡くなったらこうするといった文章になります。
ところで今回の遺言書では相続人間での争いをできるだけ防止するという観点から信託銀行の遺言信託を利用することにしました。
現状ではほとんど問題ないのですが、念には念を入れて対処したということです。配偶者に係る遺言書を一緒に作成したのも少しでも問題の種を摘み取っておこうと考えた結果です(子供からすると、配偶者であるお母様の遺言書にも、お父様の考えが反映することに重要な意義があるのです)。
なお、先程、お客様の所から帰ってきたばかりですが、原案通りに納得していただき、来週にも公証役場で公正証書遺言を作成する予定です。
皆様方も少しでもご心配があるようであれば、ある程度のコストはかかりますが、遺言信託等を利用してシッカリした遺言を作成するようにして下さい。