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2009年07月25日

遺産分割に関する一考察

今回は遺産分割に関する私の考え方をご紹介します。

相続が発生しますと相続人の間で遺産分割の話し合いが行なわれますが、法定相続割合で分割するケースが多いようです。

例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合には配偶者が半分を相続し、残りの半分を子供2人で均等に相続するというものです。

もちろん遺言書があればそれに従いますが、無ければ、このように法定相続割合を基準にするというわけです。

ところで、法定相続割合で按分する場合、通常は相続時点での相続税評価額を基にして計算します。それではここで一つ質問します。

相続財産として駐車場と自宅があったとします。いずれも財産の評価額は5000万円です。相続人が子供2人だとして、貴方ならいずれが欲しいですか?

ほとんどの方は駐車場を選択するのではないでしょうか? その理由は収益性にあります。自宅の場合には収益性はゼロですが、駐車場の場合には駐車料金が毎月入ってくるからです。

このように同じ評価額の財産であっても収益性には格段の違いがあるのです。したがって、法定相続割合で分配したとしても必ずしも公平になるとは限らないということはよく理解しておく必要があります。

それではここで応用問題を出しますので考えてみて下さい。

<前提条件>

1.相続人・・・母親と長男、長女。いずれも結婚して所帯を持っているが、長女には残念ながら子供はいない。なお、母親には別途財産があるので相続しないものとする。

2.相続財産・・・アパート2棟(年収1500万円)、貸駐車場(年収1200万円)、自宅(かなり広い)、金融資産700万円、アパートの建築資金としての借金が5000万円ほどある。全体の相続税評価額2億円。

3.長女の嫁ぎ先との関係はあまり良くないものとする。

実はこれは実例なのです。それも現在進行中の事案。もちろん、ある程度、条件は変えておりますが、イメージとしてはこんな感じです。

それではお聞きします。皆様が税理士だとして、どのような按分方法をご提案されますか? 全体の相続税評価額は2億円ですから、各人の取得財産が1億円になるように全て半々にしますか? それも一つの考え方ではありますが、この事案では赤点だと思います。

この事案で一番問題になるのは3番目の条件、つまり嫁ぎ先との関係です。

もし、長男と長女が半分ずつ相続しますと長女が取得する財産は1億円になりますが、その長女が亡くなったら、この財産はどうなると思われますか?

それほど難しくありませんね。子供がいないので長女のご主人とか、その兄弟のほうに移ってしまいます。それでは面白くないですね。長女もそれはイヤだと仰っていました。

それではここで私の提案内容をご紹介します。それはアパートとか駐車場の今後30年間に獲得できる予定の手取り収入を計算して、その半分に当たる駐車場の持分(約80%)を長女に渡すというものです。

この駐車場の立地条件は抜群なので駐車場の土地の80%だけを渡せば、手取り収入ではほぼ同じになるのです。

ところで、なぜこのように30年間という長期の手取り収入を計算したかと言えば、アパートには借金が残っているので、単年度だけで計算すると不公平になるからです。

いずれにしても相続税評価額で計算すると、長女に渡す財産は全体の3分の1程度、土地の面積で計算すると実に6分の1以下です。

なお、このように分けた場合でも長女に渡す駐車場の持分がこのままでは嫁ぎ先に行ってしまうので、長男の子供に財産を与える旨、長女に遺言書を書いてもらうことにしました。

もちろん嫁ぎ先との関係が良ければ遺言書を書くことは無かったと思いますが、この事例では嫁ぎ先に財産が移るのを防ぎたいということだったのでこのようにしたわけです。

ところで、この案は私が全て考えたのですが、長女からは全く文句が出ませんでした。その大きな理由は駐車場の収入で十分生活できるプランだからです。

資産家の場合にはたとえ、不動産の名義が自分のものになったからといって売却することはままなりません。つまり不動産を所有すること自体にはほとんど価値が無いのです。不動産から得られる果実にこそ意味があるというわけです。

いかがでしょうか? 遺産分割というのは非常に骨の折れる難しい問題の一つですが、提案する側の考え方一つでこのように結果に大きな差が生ずることになります。

因みに私の実家にはほとんど財産が無いので私のノウハウを活かすことができません。残念。


2009年07月13日

個人所有の住宅を借上げ社宅とすることは可能か?

一般の企業には従業員とか役員のための社宅制度があります。この社宅制度の本来の目的は従業員等のモラールアップにあるのですが、税金上も次のようなメリットがあります。

<社宅の税金上のメリット>
①自社所有の社宅の場合・・・社宅を購入した場合の各種のコスト(支払利息、減価償却費、固定資産税等)を損金に算入できる。ただし、一定の額を従業員等から徴収する必要があるため、その額だけ損金算入額が少なくなる。

②借上げ社宅の場合・・・社宅を借り上げる場合の各種のコスト(支払家賃、礼金、管理料等)を損金に算入できる。ただし、上記①と同様、一定の額を従業員等から徴収する必要があるため、その額だけ損金算入額が少なくなる。

ところで、このようにメリットの多い社宅制度ですが、同族会社の場合にも利用できるのでしょうか? 

これについては、役員だけでなく一般の従業員(同族以外)についても同様な社宅制度を設けておれば認められるという人と、役員だけであっても認められるという人に分かれます。

これについては法律上、ダメだという規定も特に設けられていないので、私の事務所では同族の役員だけの社宅制度であってもOKだと考えております(過去に否認されたこともありません)。

ただし、同じく社宅制度であっても、「①自社所有の社宅」については問題ないのですが、「②借上げ社宅」については要注意です。

つまり第三者から借り上げるケースでは特に問題ないのですが、オーナーの所有するマイホームとかアパマンの一室を借り上げるケースでは次のように処理することになっているのです。

★オーナーの所有するマイホームとかアパマンの一室を借りて、そのオーナー(家族でも同じ)に社宅として貸す場合の会計処理・・・

「会社が個人に支払う家賃と会社が役員から貰う社宅家賃との差額は実質的に住宅手当と同じものなので、その役員の給与として処理する。」

つまり、会社から貰う家賃を不動産所得として処理することはできないということです。分かりやすく言えば、マイホームとかアパマンに係る各種の経費を損金に算入することはできないということです。

以下、具体例な仕訳事例を挙げておきますので、ご参考にして下さい。

<具体的仕訳事例>
会社が個人に支払う家賃(時価)が10万円で、会社が役員から貰う社宅家賃が6万円のケース

<会社の仕訳>
1.支払家賃 10万円/現預金  10万円→会社が個人オーナーに家賃を支払ったときの仕訳

2.現預金   6万円/支払家賃 6万円→会社が役員から社宅家賃として貰ったときの仕訳

3.役員給与 4万円/支払家賃 4万円→差額を支払家賃から役員給与に振替処理するときの仕訳

<個人の仕訳>
ネットの金額4万円(年間48万円)を給与収入として申告することになります。

このように個人が所有する物件を社宅として会社に賃貸しても差額部分を役員給与として処理しなければならないのです。

このようなことから、社宅制度を利用してできるだけ節税を図りたい場合には会社自体が不動産を所有するようにして下さい。