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2010年04月27日

建物を現物出資するという選択肢

私は小著で様々な節税方法についてご紹介してきましたが、今回はそれらの著書では触れなかった現物出資という方法についてご説明したいと思います。

現物出資というのは金銭出資に対応する概念ですが、有価証券とか不動産といった現物を金銭の代わりに出資するというものです。新規に法人を設立する場合だけでなく増資する場合も利用できます。

ところで法人を使った節税方法には①不動産管理会社を設立する方法と、②不動産所有会社を設立する方法の2つのやり方がありますが、この現物出資という方法は②の不動産所有会社の範疇に属するものです。

つまり次のように整理することができます。

<法人を使った節税方法の分類>

①不動産管理会社の設立・・・現金出資による方法のみ

②不動産所有会社の設立・・・現金出資による方法と、現物出資による方法に分かれる。

このうち不動産管理会社については既にご存知だと思いますし所有会社とは基本的考え方が異なりますので、今回は不動産所有会社についてだけ相互に比較する形でご説明したいと思います。

まず現金出資により不動産所有会社を設立する方法ですが、この場合には出資者は次のように分かれます。

イ.親だけが出資するケース
ロ.子だけが出資するケース
ハ.親と子の両方が出資するケース

これらのうち、いずれを採用するかはその時の状況によって異なりますが、「イ.親だけが出資するケース」は当事務所のお客様の中にはほとんどありません。あったとしても子供がいないケースぐらいです。

なお、子供が出資する場合で出資する資金を子供が持ち合わせていない場合には、親が贈与したり貸し付けたりします。そして貸し付ける場合には子供に支給する役員給与から返済してもらうことになります。

ところで、親が出資しますと出資の対価としてもらうことになる株式(有限会社等は出資という)が相続財産になりますが、ほとんどを役員給与として支給すれば評価額がそれほど上がりませんので、それほど心配する必要はありません。

また、もともと相続税がほとんどかからないという場合にはどなたが出資者になっても全く問題にならないわけです。

一方、現物出資による方法は現物を持っている人が出資者にならざるを得ません。例えば建物を現物出資する場合、建物を所有している親が当然に出資者になるわけです。

そうしますと出資の対価としてもらうことになる株式が相続財産になるわけですが、多額の役員給与を支給すれば法人にはほとんど資産が残りませんので、株式の評価もタダ同然というわけです。

それでは現金出資による方法と現物出資による方法では、どちらが相続税の節税になるのでしょうか?

これについては少し考えていただくと分かるのですが、ほとんどの場合、現物出資によるほうが有利になります。

その理由は現金出資による場合には法人が建物を購入するわけですが、その購入代金が建物の譲渡者である親のほうに移るからです。

通常は資金繰りの関係から長期に分割して支払うことになるわけですが、いずれにしても建物の所有者に資金が移り、それが相続財産として相続税の課税対象になってしまうのです。

ところが現物出資の場合には売買ではなく出資ですから購入代金を法人に支払うということはありませんので相続財産にはならないのです。

もちろん上述しましたとおり株式については相続財産となりますが、役員給与等として支払ってしまえば残るのは出資した建物だけになりますので、株式の評価額は徐々に低くなっていくのです。

なお現金出資による方法であろうと現物出資による方法であろうと、役員には原則として相続人が就任すべきです。

そうすれば支給する役員給与が相続財産から除外されるだけでなく、納税資金として貯めておくことができるからです。

いずれにしても、様々な節税方法のうち、いずれの方法を採用するか、あるいは組み合わせるかによって、結果が相当違ってきますので、必ずこういったことを専門にしている会計事務所に依頼するようにして下さい。後悔、先に立たずです。

なお現物出資による場合は出資する不動産の価格(時価)を不動産鑑定士に鑑定してもらう必要があります。


2010年04月12日

共有にする場合には出資割合に気を付けて!

マイホームを購入したり建設する場合には共有にするケースがよくあります。その理由は各種の贈与の特例があるため夫婦それぞれの親とか祖父母から資金援助を受けられるようになっているからだろうと思います。

ところで、このように共有の場合には出資額に応じて持分登記するわけですが、もし出資額と登記した持分が違っている場合には差額に対して贈与税が課税されます。

具体例を挙げてご説明しましょう。例えば、マイホームの購入資金が5000万円で夫婦それぞれの出資額が次のようになっていたとします。

夫・・・出資額4000万円(うち夫の親からの贈与1500万円、残り2500万円は銀行ローン)
妻・・・出資額1000万円(すべて妻の親からの贈与)

こういった場合、夫の持分を4/5、妻の持分を1/5として登記すれば特に問題ないのですが、もし夫の持分を1/2、妻の持分を1/2として登記すれば次のように妻は夫から1500万円の贈与を受けたものとして贈与税が課税されます(基礎控除の110万円は無視)。

贈与対象額・・・5000万円×1/2-1000万円=1500万円

このようにマイホームの場合には持分登記を間違えると贈与税が課税される可能性があるということを多くの人がご存知なのですが、アパマンの場合にはなぜか間違える人が多いのです。

例えば、今年初めて確定申告したお客様の中に2億円ほどの賃貸用マンションを購入された方がいらっしゃいます。

事前にお話を伺ったときは奥様が100%取得されたということだったので奥様だけの確定申告でいいのかと思っていたところ、登記簿を見ますと奥様の持分が4/5、ご主人の持分が1/5となっているではありませんか。

このお客様のケースでは借金の額1億4000万円が次のように奥様の持分より少なかったのでそれほど大きな問題にならなかったのですが、もし多かったとしたら面倒になるところでした。

借入金の額1億4000万円<奥様の持分1億6000万円(2億円×4/5)

ところで、このケースでは初めての確定申告だったのでどうにか対応できたのですが、最近相談に見えた方の場合は7~8年前から間違えたまま確定申告してきているのです。

このお客様はかなりの資産家で相続対策のために沢山の賃貸マンションを所有されているのですが、資金の出資額と登記持分が全く合っていないのです。

どういうことかと言いますと、建築資金を母親名義で借りているのですが、建物の持分を母親と子供がそれぞれ2分の1ずつにして登記しているのです。

そして、それに基づいて確定申告しているため母親の所得が少なくて子供の所得がかなり多いという歪(いびつ)な状態になっているのです。支払利息を全額母親に計上し、子供はゼロとして計上しているわけですから当然です。

このお客様の借入金は8億円近くもありますので、もし建物の2分の1を母親が子供にタダで贈与したものとして贈与税が課税されたらたまったものではありません。

現在、どのように対応しようか思案中ですが、不動産の登記持分と出資額が一致していないと税務上、大変な問題を抱えることになりますので皆様方も十分お気を付け下さい。

なお、このお客様の確定申告の原稿はお客様ご自身が行い、税理士はメクラ判を押していたようなのです。また融資している銀行とか登記をした司法書士は気が付かなかったのでしょうか? これから少しずつ解明されていくことになろうかとは思いますが呆れてしまいます。