不動産市況
金利動向がカギ!2023年の不動産市況と賃貸住宅建築の予測
22年の不動産市況は、超低金利の恩恵を引き続き受けて、概ね良好でした。
ただ、物価上昇や昨年大きく伸ばした反動などがあり、持ち家着戸数は10%以上の減少(1~10月分まで)となりました。また、22年12月20日には日銀の「異次元緩和政策」の終息の気配が見えはじめ、23年は、大きな変化がありそうです。
本稿では、23年の不動産市況を予測してみたいと思います。
22年の不動産市況全般の振り返り
不動産市況を推し量る時にはいくつかの視点があります。
まず、地価動向をみれば、9月に公表された基準地価(価格時点7月1日)では、住宅地の全国平均が31年ぶりにプラス圏になりました。また都道府県別にみても住宅地は19の都道府県がプラスとなり、19年と同数で、ここ20年で最も多くなりました。
次に新設住宅着工戸数の月別推移をみると、総数は(執筆時12月26日に公表分の10月分までから推計)、約85万戸で、昨年並みの様相です。しかし、冒頭に書いたように「持ち家」カテゴリーは、前年比で10%以上のマイナスとなり年間計は25万戸程度になりそうです。昨年の反動減に加えて、物価上昇の影響で「買い控え」の状況にあるようです。一方、賃貸用住宅が主な「貸家」カテゴリーでは、21年3月以来現在まで前年同月比プラスが続いており、好調が続いています。年間でも前年比8%程度のプラス、34.5万戸程度で着地しそうです。
次に、不動産投資の市況が強く反映されるキャップレートの推移をみてみましょう。(財)日本不動産研究所が年二回(4・10月)に調査する投資家調査の中のキャップレートの動きをみれば、最新の22年10月調査(11月25日公表)では、賃貸住宅(ワンルームタイプ:1棟)のキャップレートは東京城南エリア(目黒区・渋谷区)では3.9%となり、調査開始以来、初めて4%を下回りました。また実際の取引水準では3.6%程度となり、2000年以降では最も不動産投資熱が旺盛となっていえるでしょう。
日銀金融政策変更による不動産市況に与える3つの影響
このように比較的好調な22年の不動産市況でしたが、今後の展開では気になる点もあります。
12月20日に日銀は、「異次元緩和」を少し緩める政策を発表しました。具体的には、政策金利はいわゆる「マイナス金利政策」を維持するものの、長期国債の買い入れにおける許容範囲をこれまでの0~±0.25% から0~±0.5%に変更。これにより、長期国債は0.5%まで上昇可能性が出てきました。実際に12月26日の10年物国債の金利は0.45前後で推移しています。
長期国債金利の上昇は、不動産市況に3つの影響を及ぼします。
1つ目は、住宅ローン金利、特に固定金利の上昇を招きます。すでに住宅ローン固定金利は上昇しています。
2つ目は、先ほど述べたキャップレートの上昇可能性があります。キャップレートの上昇は、賃料一定ならば理論上(実取引ではなく)は、価格下落を意味します。理論上の価格が動くことと、実取引での価格が動くことの間にはタイムラグがありますが、「そのうちに」理論価格に収斂されます。
3つ目は、円高へ振れることで、外国人投資家の優位性が減るという影響です。実際に先に述べた国債金利の許容範囲の変更により、為替相場は大きく動きました。一時は1ドル150円に迫る状況から、現在では132円前後となっています。
23年の不動産市況のカギを握る金利の動向
12月23日(金)に公表された11月分の全国消費者物価指数では、価格変動の大きい生鮮食品を除いた指数は、1年前と比べて+3.7%と前月(10月)から上げ幅を拡大しました。この数字は、第2次オイルショックで物価高が続いた1981年12月の+4.0%以来の伸び率となりました。生鮮食品とエネルギーを除いた指数も、+2.8%となり前月より0.3ポイント上昇でした。一方で、酒類以外の食料とエネルギーを除いた「欧米型コア指数」は+1.5%と、10月と上げ幅と変わらずとなりました。
消費者物価指数を財とサービスに分けると、財が+6.7%に対し、賃金の影響を受けやすいサービスは+0.7%と10月から上げ幅を縮めています。2月には、食品中心の値上げラッシュが予定されており、1-3月期にかけてさらに上昇する見通しです。
こうした状況から鑑みれば、23年に入ってもしばらく物価上昇が続くものと思われますが、23年半ばまでには上昇はいったん止まるものと思われます。前節で述べたように、23年の不動産市況は金利の動向で大きく変化することになるでしょう。
好調がつづいた賃貸住宅建築はどうなる?
21年春以来2年近く前年同月比プラスが続いている賃貸住宅建築の23年の見通しですが、金利が多少上昇することがあるという前提で予測するとすれば、いまの勢いはやや落ち込み可能性があります。しかし、過去をさかのぼれば、金利上昇すれば株価の下落可能性が高まります。そのため、株式での利益確定が進み、そのお金が賃貸住宅投資に廻る可能性が高まります。こうしたことを勘案すれば、23年1年間の貸家新築着工数は、概ね22年並みということになると予測します。
執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所