不動産市況

日銀データで見る賃貸住宅融資の状況

日銀データで見る賃貸住宅融資の状況

 貸家(賃貸用住宅)の新設着工件数は、21年3月から(本原稿の執筆時点10/25最新データのある)22年8月まで18カ月間連続して前年同月比プラスで推移しています。
 好調が続く賃貸用住宅の建築ですが、その状況は金融機関による貸家業への貸し出し状況からも伺えます。

好調が続く貸家着工数

 2018年9月から21年2月まで30カ月連続で前年同月比マイナスが続いた貸家新設着工件数ですが、一転21年3月からはプラスが続いています。主に個人住宅の「持ち家」の新設住宅着工件数は、コロナ禍が落ち着いた20年11月からしばらく、ペントアップ需要もあって好調が続いていましたが、21年12月以降連続して前年同月比マイナスが続いています。明暗を分けた状況となっています。

新設住宅着工件数の推移(22年)

 図1は、22年以月以降の新設住宅着工戸数の推移です。
貸家着工数は実数字をみても、例年高い数字の出る3月以外に6月、8月で3万戸を超えています。このペースでいけば、22年1年間の貸家着工件数は33.8万戸~34万戸程度(21年比プラス5%)での着地が見込まれます。
 このような好調の背景には、旺盛な需要に加えて金融機関の融資スタンスの変化があると思われます。

賃貸住宅の建築する際に融資を受けるメリット

 土地活用として賃貸住宅を建築する方の大半は、金融機関などからの融資を受けます。たとえ手持ち資金が豊富にあったとしても、それは頭金や諸経費にだけ使い、残りはすべて融資を受けるという方が多いようです。
 高齢の方、将来の相続を見据えている方などは「ローンを背負いたくない、あるいは「お子さま(次の代)にローンを引き継がせたくない」というお考えの方もおられると思います。しかし、ローンを活用して賃貸住宅を建築した場合は、ローン残債がマイナスの財産となり、相続税評価額から控除することができます。(ケースによります。詳細は、税理士など専門家にお尋ねください。)仮に、手持ち資金があったとしても、融資を受ければ、そのお金を例えば株式や投資信託などの購入に充てることができます。
 こうしたことから、大抵の方は融資を受けて賃貸住宅を建築するわけです。

貸家業への貸し付け状況

 大半の方が融資を受けて賃貸用住宅を建築するとするならば、貸出状況は市況つまり着工数を反映していると言えます。

 個人による賃貸住宅投資、賃貸住宅建築向けの融資の状況を知るデータの1つに、日銀の「貸出先別貸出金」というデータがあります。このデータは4半期に一度公表されていますが、これ推移を丹念に見ると、金融機関の融資スタンスが分かります。

個人貸家業への設備資金新規貸出額

 リーマンショックで貸家着工件数は激減しましたが、2012年ごろからは回復のキザシが見られはじめ、2013年春から金融緩和政策が実行され、政策的に低金利に誘導されます。こうしたことを受けて、金融機関は不動産融資、賃貸用住宅融資を積極的に行うようになります。その様子がグラフにも表れています。
 しかし、17年半ばくらいから賃貸住宅供給が過剰ではないかとの指摘や、その後メディアを賑やわせた不正融資問題等があり、17年後半からは貸出総額が減少します。
その状況は図3をみれば顕著です。

新設着工戸数(上段:戸数.下段:前年比)

 2018年19年と貸出総額は減少、そして20年春からのコロナ禍になると、マイナス領域に入りました。しかし、21年に入ると再び徐々に増加傾向になっています。このように融資の状況は賃貸用住宅建築市況をはっきりと写し出しているといえるでしょう。

今後の見通し

 さて、今後の見通しはどうでしょう。
 政府・日銀による金融緩和政策はしばらく続きそうですが、融資スタンスはこの先の不動産市況も大きな要因となることが言われています。この先の市況は大きな崩れはないものの、逆にプラスの状況をみつけるも、難しいという状況です。
 現場の声を聞くと、このところは再び、融資状況が少々厳しくなってきているとの声も聞かれます。賃貸住宅建築をお考えの方は早めの対応がいいと思います。

執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所

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