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企業の不動産戦略=CRE戦略とは何か?

企業の不動産戦略=CRE戦略とは何か?

 自宅での事業を営む個人経営を除いて、一般的な企業経営においては、企業は何らかの形で不動産とかかわりを持ちます。企業活動とは、「なんらかの不動産を活用して企業価値の最大化を図る」という行動を起こしているわけです。
 本連載では、企業と不動産との関わり(CRE戦略)の基本的な考え方と、実践方法について述べます。加えて、とくに企業が行う賃貸住宅経営、あるいは社宅運営など、企業が所有する住宅について解説します。
 2020年春から世界中に広まっている新型コロナウイルスの影響により、企業は活動方法の変更を余儀なくされました。オフィスのあり方、店舗経営のあり方、など影響はこれからもっと顕著になるでしょう。しかし、こうした社会的な激変のご時世でさえも、比較的普遍だったのは「住まい」でした。WITHコロナ、アフターコロナの世界をイメージしながら、連載を進めていきたいと思います。

不動産とのかかわりを強化する企業が増えている

 近年、何らかの形で不動産を所有する企業が増えています。
1990年代の終わりごろから2000年代前半にかけては、バブル後遺症の影響もあり、「持たざる経営」がもてはやされました。企業は、「大きな負債を背負ってまで不動産を所有する事はない。」あるいは、「所有しているもののうち、有効活用されていないものは、切り離す。」という、「身軽な経営が良い」とされてきました。
 その後、ミニバブル~リーマンショックを経て、2012年後半からは不動産市況も回復、2013年5月以降は低金利政策が導入されました。企業業績も好転しはじめ、企業は徐々に投資に積極的になります。人材投資(採用)、設備投資、そして不動産投資などです。
このように不動産とのかかわりを増やす企業が増えました。具体的には、オフィスを増床、新規ビルの購入あるいは建設、社宅を復活(購入、建替え、遊休地活用)、新たに土地を購入して賃貸住宅ビジネスを始める等々です。
 こうした傾向の中で、つまり「不動産を持たない」→「不動産を積極的に活用する」という変化の中で、「企業はかかわりを持つ不動産に対して戦略を持たなければならない」ということが言われ始めます。

企業の不動産戦略=CRE戦略について

 繰り返しになりますが、企業は、不動産を所有しているいないにかかわらず、何らかの形で不動産とは関わりあっています。企業が関係する(所有する・使用する)不動産のことを、英語表記での頭文字をとってCRE(corporate Real Estate)といいます。日本では2010年頃から「CRE」という言われ方が徐々に広まってきました。

 CREとは「不動産そのもの」のことですので、「企業が関わる不動産をどう扱うか」についてのあり方は、「CRE戦略」といういい方が相応しいと思います。

企業経営3つの戦略

 企業不動産戦略(CRE戦略)を考えるときに大事な事は、不動産を不動産単独で考えないということです。具体的には、経営戦略の一環としての不動産戦略であり、財務戦略の一環としての不動産戦略でなければならないという事です。

経営
戦略
財務
戦略
不動産
戦略

 3つの要素を具体的に述べると、

 経営戦略とは、自社の強みをいかしながら、市場性、競合との関係を考慮しつつ、中長期の展開を考えることです。その際に、独自固有の長所があれば、強固な経営戦略が描けます。また、時流の変化に伴い、それに適合する柔軟さも求められます。この「時流適応の為の企業の変化」には時間を要することもあり、例えば、賃料収入のある不動産を所有しておけば、キャッシュフローの下支えにもなります。

 財務戦略とは、借り入れ(主に金融機関から)や、株式などでの資金調達をどう組み立てるかという事です。また、現在の借入状況、これからの本業においての設備投資の見通し、その他今後数か年のキャッシュフロー戦略などを指します。

 そして、最後は不動産戦略です。オフィスビル、工場、店舗物件等の不動産を所有する、もしくは借りる、どちらが現状の自社には適しているのか?
遊休地は活用した方がいいのか?売却した方がいいのか?といったことを検討します。

中小企業経営における不動産戦略

 これら3つの視点をまんべんなく、検討して、「企業価値の最大化」を図るという事が求められます。
 たとえば、昨今、郊外や地方の中小企業は、後継者不足により、廃業やM&Aをする事例が増えています。
 とくに増えているM&Aでは、中小企業が持つ不動産にスポットがあたり、意外に高額な売却値が付くことも多いようです。また、「企業が持つ遊休土地を売却する」という選択を取らず、そこに例えば賃貸住宅を建てて、賃料収入を得ることで、企業売却後も安定した収入を得るという元経営者の方もいらっしゃいます。このように、不動産を上手く活用すれば、企業経営に弾みがつくことは間違いありません。

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