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誰の名義でアパート経営を行うかが決まったら、さらなる計画の具体化を進めましょう。アパート経営が成功するかどうかは事前の計画でほぼ100%決まると言われていますが、その中で大きなウェイトを占めるのが「資金計画」です。
他の事業とアパート経営がもっとも違う損益・収支構造の大きな特徴、それは建物の取得資金を長期借入金で賄うという点にあります。返済期間が長期に及ぶため、その時々で収支のバランスが変わったり、支払わなければならない税金が変化したりするのです。資金計画といっても、月々の支払額と家賃収入のバランスだけではなく、数十年のスパンで損益・収支構造がどのように変化するのかを理解し、計画を立てることが不可欠だと言えるでしょう。
収支バランスのキーを握るのは借入金の返済ですが、返済方法には二つの方法があります。元金返済額+利息支払額が毎年一定となる「元利均等返済方式」と、元金返済額のみが毎年一定となる「元金均等返済方式」です。
多くの方が住宅ローンなどで利用しているのが「元利均等返済方式」ですが、アパート経営の場合、この方式を選ぶことによって返済期間中の収支バランスの変化が大きくなることもあり、注意が必要です。なぜならアパート経営の場合は支払利息を経費に算入できるという点が、個人の住宅ローンとは異なるからです。
つまり元利均等返済方式の場合、時期が早いほど利息支払額の割合が大きく、それだけ経費が多くなります。そのため課税所得が低く抑えられ、支払う税金は少なくて済むのです。しかし返済が進むにつれて支払利息の割合が低くなるため、当然ながら課税所得は年々膨らむ結果に……。
もちろん他の事業でも金融機関からの借入を行うことはありますが、返済期間が短いためアパート経営ほど税金の額が大きく変化しないのです。長期借入金があるアパート経営では、年々納税額が増えていく仕組みになっていることを覚えておきましょう。
もう一つの返済方式である「元金均等返済方式」の場合には、元利合計が当初多く、徐々に減っていきます。経費に算入できる支払利息額が少なくなって税額が増えたとしても、トータルの支払金額が減るため、手取り収入にはさほど影響しないという仕組みになっているのです。
毎期の手取り収入がほぼ一定となるため収支計画が立てやすいというメリットがある上、元利均等返済方式よりもトータルの収支も良くなるのもうれしいポイントだと言えるでしょう。
元利均等返済方式と元金均等返済方式との違いが 手取り収入の額に与える影響 |
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元利均等返済方式 | 元金均等返済方式 | 差額 | |
支払利息 | 169,053 | 150,500 | △18,553 |
税金 | 176,525 | 184,360 | 7,835 |
差額 | △10,718 |
ただし上記で紹介した二つの返済方式の収支推移は、複数のアパートを経営しているケースや、アパート経営以外の収入が多いケースなどには、当てはまらないこともあります。ただ一つ確かなのは、1年目、2年目といったアパート経営初期の段階での収支だけに目を向けるのではなく、10年、20年先の収支についてもシミュレーションしておくことで、長期的に安定したアパート経営が可能になる、ということです。
長期的な損益・収支の構造を理解したら、次は「どのくらい借り入れるのか」を計画しましょう。よくあるのが、「この土地なら、どのくらいの規模のアパートが建てられるか」「自分はどのくらい借り入れることができるのか」といった視点から借入金額を決めるケース。ただ豪華マンションを建てたい!という目的であればそれでもよいかもしれませんが、手堅くプラスαの収入を得るための堅実なアパート経営のためには、もっと視点を変えなくてはならないでしょう。安定経営の基本は、リスクを最小限に抑えておくこと。つまり資金面で言えば、“必要な家賃収入を得るために必要最小限の金額を借り入れる”というスタンスを心がける必要があります。言い換えれば、必要以上の借入を行わない、ということになるでしょう。
堅実な借入を行うために、まずは必要となる家賃収入を算出しましょう。事業だけでなく家計も含めて考え、トータルでどのくらいの収入が必要なのかを考えることが不可欠です。
例えば今までの月々の生活費が35万円だったとしましょう。65歳以降に受給できる年金の月額をおよそ15万円と想定すれば、アパート経営で生み出すべき手取り収入は20万円ということになります。もちろん、家賃収入がそのまま手取り収入になるわけではありませんから、そこに借入金返済額(元利合計)・各種経費を加算し、月々の目標賃料を決めることになります。
目標賃料には、さまざまな経費を算入する必要があります。おおまかな内訳は以下のような割合になります。
確保したい手取り収入部分が目標賃料の40%となりますが、それを20万円と設定すると、
という数式となり、目標賃料は50万円という全体像が見えてきます。
次に借入金の上限額をどのくらいに設定するのがよいのかを考えましょう。借入金の目安は、右記の「借入金100万円の場合の毎月の返済額」の表をベースに算出することができます。 まずは右表から自身が借り入れる際の金利を選びます。金利は名義人の収入などによって変動します。金融機関などで審査をしてもらうことで金利を知ることができるでしょう。次に返済期間を設定します。アパート経営の場合はだいたい25年ほどの返済期間で設定することが多く、返済期間の長短によって返済額が変動します。
例えば、金利1.5%で返済期間を25年に設定した場合、100万円借り入れ時の月々の返済額は「3,999円」という基準値が出てきます。
先の計算式で導き出した目標賃料50万円のうち、借入金返済額全体の40%である20万円は、表をもとに算出された基準値3,999円の約50倍にあたります。トータルの借入金も同じ比率で考えることができるので、100万円の50倍、つまり5,000万円を借り入れることができるということになります。
借入金100万円の場合の毎月の返済額 (単位:円) | |||
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金利 | 20年 | 25年 | 30年 |
1.1% | 4,640 | 3,810 | 3,258 |
1.2% | 4,688 | 3,859 | 3,309 |
1.3% | 4,732 | 3,904 | 3,354 |
1.4% | 4,775 | 3,948 | 3,399 |
1.5% | 4,825 | 3,999 | 3,451 |
1.6% | 4,869 | 4,044 | 3,497 |
1.7% | 4,914 | 4,090 | 3,544 |
1.8% | 4,964 | 4,141 | 3,596 |
1.9% | 5,009 | 4,188 | 3,644 |
2.0% | 5,055 | 4,234 | 3,692 |
2.1% | 5,106 | 4,287 | 3,746 |
2.2% | 5,152 | 4,334 | 3,794 |
2.3% | 5,198 | 4,382 | 3,843 |
2.4% | 5,250 | 4,435 | 3,899 |
2.5% | 5,297 | 4,484 | 3,949 |
別の視点で考えると、5,000万円の借入金で建てたアパートの年間家賃収入が600万円(50万円×12ヶ月)以下なら、一部自己資金を投入することで、経営に堅実性を持たせることができるということになります。
第1回のコラム「土地活用の目的を考える」でも考察したように、アパート経営を始めるにはしかるべき目的があるはずです。その目的意識をしっかり持った上で、アパート経営の収支だけでなく、暮らしをトータルに捉えた収支のバランスを長期的な視点で考えることが、アパート経営を手堅く成功させるための一番のコツだと言えるでしょう。
建物の経年劣化に伴い、家賃収入は徐々に少なくなっていきます。とくに昨今では、元利均等返済方式のケースで、年月を経るごとに税金の支払い額が増え、追い討ちをかけるように家賃収入が減ることになり、資金繰りが苦しくなるケースも増えています。
このような状況の下、できるだけ収支を良くするために個人経営から法人経営に切り替える方が増えています。個人よりも法人の税率の方が低い、家族に給与を支払うことで所得の分散が図れる、他の金融機関に変更することで金利を安くできる、といったメリットがあるからです。所得が多くなって税金の負担感が増している方は法人化を検討するのも一つの手です。