[an error occurred while processing this directive]
土地活用の目的からアパート経営が最適だとなった場合、次に考えるべきは、誰の名義で建てるのかということ。なぜなら誰が名義人になるのかによって、不動産所得に関わる税金や、いずれ発生する相続税に、大きな差が出てくるからです。土地を所有している「親」が建てる、いずれ相続することになる「子」が建てる、今人気の「法人」で建てる……どの選択肢が一番おトクかは、簡単に判断できるものではありません。賃料収入や借入金の返済などアパート経営に直接関係する収支だけでなく、その他の所得、家族の年齢や就労状況、相続を見越した将来の展望など、様々な要素をトータルに考える必要があるのです。
「名義人の変更ぐらいなら、アパート経営を始めてからでもいいのでは?」と考える人も多いかもしれませんが、アパート経営が一旦始まってしまうと名義変更は至難の技。多くの書類の作成・申請の手間がかかるのはもちろん、不動産取得税や登録免許税などのコストも発生。さらに、借入金返済の名義人変更にあたっては、残額の2%もの違約金が必要になるケースもあるのです。
まずは、個人で建てるか、法人で建てるかを考えてみましょう。正しい判断をするためには、アパート経営で「不動産所得」を得ることになった場合、どのような税金を、どのくらい納税しなければならないのかを知ることが大切です。個人名義と法人名義では課税される税金の種類が異なり、それぞれに課税方式も異なります。
個人名義で建てる際に考えておかなければならない税金は、主に所得税(収入から経費を差し引いた所得に対して5〜45%が課税される)と住民税(所得に対して一律10%が課税される)。アパートの規模によっては事業税(不動産所得から290万円を差し引いた事業所得に対して5%が課税される)が必要となる場合もあります。
大切なのは、アパート経営によって得られる不動産所得だけを考えるのではなく、その他の所得をトータルに考えること。サラリーマンオーナーであれば給与所得、年金生活者であれば雑所得など、家族の所得合計額が年間いくらになるのかを考えてみましょう。その金額から必要な控除額を差し引き、課税される金額を算出すれば、どのくらいの税金を支払わなければならないのかをシミュレーションすることができます。 個人名義の際のポイントは、「累進課税」で税額が設定されることです。つまり、課税される所得が増えれば増えるほど、納める税金も多くなるのです。
【 所得の区分には10種類があります 】 | |
---|---|
利子所得 | 預貯金や公社債の利子、貸付信託や公社債投信の利益の分配などで得る所得 |
配当所得 | 株式の配当、証券投資信託の収益の分配などから得る所得・不動産所得…土地や建物などの不動産、土地の上に存する権利、船舶・航空機の貸付などから得る所得 |
事業所得 | 商業・工業・農業・漁業・自由業など、事業で得る所得 |
不動産所得 | 土地や建物などの不動産、土地の上に存する権利、船舶・航空機の貸付などから得る所得 |
給与所得 | 勤務先から受ける給料・賞与などの所得 |
退職所得 | 退職金など勤務先から受ける所得 |
山林所得 | 5年を超えて所有していた山林を伐採して譲渡したり、立木のまま譲渡したりすることで得る所得 |
利子所得 | 預貯金や公社債の利子、貸付信託や公社債投信の利益の分配などで得る所得 |
譲渡所得 | 事業用の固定資産や家庭用の資産などを譲渡することで得る所得 |
一時所得 | 懸賞や福引の賞金、競馬や競輪などの払戻金、満期保険金などの所得 |
雑所得 | 年金や恩給などの公的年金、非営業用貸金の利子、原稿料や印税、講演料など他の9種類の所得のどれにも属さない所得 |
【 状況によって、適用される控除にも様々な種類があります 】 | |
---|---|
雑損控除 | 住宅・家財・現金など生活に必要な動産が災害・盗難に遭ったときに受けられるもの |
医療費控除 | 主に年間の医療費の合計金額が10万円を超過したときに受けられるもの |
社会保険料控除 | 国民年金、国民健康保険、健康保険、厚生年金保険などの社会保険料を納めたときに受けられるもの |
小規模企業共済掛金控除 | 共済契約の掛金、個人型年金の加入者掛金、心身障害者扶養共済制度の掛金を支払った場合に受けられるもの |
生命保険料控除 | 生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った際に受けられるもの |
地震保険料控除 | 地震保険料を支払った際に受けられるもの |
寄付金控除 | 国や地方公共団体、特定の公共法人などに寄附をした際に受けられるもの |
障害者控除 | 本人や家族が障害者である場合に受けられるもの |
寡婦(寡夫) | 離婚して扶養親族がいる人や配偶者と死別した人が受けられるもの |
勤労学生控除 | 年間の給与所得が65万円以下かつ給与所得以外が10万円以下の学生が受けられるもの |
配偶者控除 | 年間の給与所得が38万円以下の配偶者がいる場合に受けられるもの |
配偶者特別控除 | 配偶者の給与所得が38万円超123万円以下の場合に、その所得に応じて受けられるもの |
扶養控除 | 同居または離れて暮らす子供・親・祖父母などを扶養している場合に受けられるもの |
基礎控除 | すべての納税者が無条件に受けられるもの |
法人名義で建てる際に考えておかなければならない税金には、法人税、法人事業税、法人住民税があります。3種類の税金があるという点は個人の場合と同じですが、法人の場合は個人のように税率が細かく分かれていないことが特徴として挙げられます。なお、事業税は支払った時点で経費になるため、それを考慮して通常は次のような所得金額に応じた実効税率を適用して税額を計算します。
【 中小法人の場合の実効税率 】 | |
---|---|
所得が400万円以下の場合 | 21.42% |
所得が400万円~800万円以下の場合 | 23.20% |
所得が800万円超の場合 | 33.58% |
個人名義と法人名義−−−両者の特徴を考慮すると、給与所得等の収入がそれほど多くない方が小規模なアパートを1〜2棟建築するケースでは税額を低く抑えることができる「個人名義」がオススメです。一方、給与所得や事業所得等の収入がかなり多い、すでに複数棟のアパートを所有している…といった方の場合は、法人名義で建築することを検討されてみてはいかがでしょうか?
名義人を事前に考えておくことは、相続税の節税対策としても非常に有効です。まずはアパート経営を始める時期と相続のタイミングをイメージしましょう。もし親の名義で建てる場合、建築から数年後に相続するのか、10年・20年後に相続するのかによって、相続税の額が大きく変わってきます。
借入金が相続財産から控除される。残額を債務控除として差し引けるため、相続税の節税が可能に。
借入金の残額が減少するのに伴って債務控除も減額され、相続税の節税効果は徐々に薄く。賃料収入を考慮すると、建築前の相続税額を上回るケースも…。
このように親世代がアパートを建てた場合、相続が発生するタイミングによっては節税効果が大きく下がってしまう可能性があります。かといって、子世代が親から土地を借り受けてアパートを建築するケースでは、相続の発生時期に関わらず相続税の大きな節税効果は期待できません。
こうしたことから、それほど遠くない時期に相続が発生する可能性が高く相続税が高額になりそうな場合は、親世代が建てることをおススメいたします。逆に、当分の間は相続がないと予想される場合には、子世帯が建てることを検討されるのもよいかと思います。
名義を「共有」にするという選択肢も、節税効果を高める方法の一つです。不動産所得が一人に集中すると、課税所得が大幅に膨らみ、それに伴って所得税や住民税が増えてしまうためです。所得を分散して節税する方法の一つとして、「共有」名義も検討しておきましょう。
押さえておきたいのは、青色申告時に受けられる「青色申告特別控除」。10室以上であれば所得から一律65万円が控除されるのですが(10室未満の場合は10万円)、共有名義であればそれぞれが10室以上所有しているということで一人ひとりに65万円控除が受けられます。
10室の要件を満たしているため「青色申告特別控除」として65万円の控除を受けることが可能。ただし、すべての不動産所得を一人の名義人の所得として計上するため、課税額はアップ。
不動産所得を分散することができるため、一人あたりの所得額を低く抑えることができ、所得税の節税が可能。ただし、10室の要件を満たさないため、青色申告特別控除は10万円のみ。
不動産所得を分散しながら、「青色申告特別控除」の要件である10室以上の要件を満たすことができる。所得が抑えられると同時にそれぞれに65万円の控除を適用できるため、節税効果が非常に高い。
節税面でのメリットが大きい「共有」名義ですが、注意すべきポイントもあります。それは共有名義となる配偶者が専業主婦などで第3号被保険者の場合は、家賃収入を得るようになることで扶養親族から外れる可能性があるという点です。共有名義にすることで新たに社会保険の支払義務が発生する場合もあるため、どちらの場合も事前にシミュレーションしておき、収支のバランスをよく考えて実行する必要があります。
いずれのケースでも、誰が建てるかを「事前に」キッチリと考えておくことが、節税効果を高めるための第一歩だと言えるでしょう。家計の収支を今一度洗い出し、それをもとに家族で将来の姿を話し合ってみてはいかがでしょうか。
夫婦間での共有名義は節税効果が非常に高く有効な手段になる一方、相続などにより兄弟で共有することになるケースでは、かえってトラブルを招きやすい面もあるため、いっそう事前の綿密な検討が必要となります。
もっとも安心なのは、土地そのものを分割して各々がアパートを建てるなど、別々に土地活用をする方法。土地の形状や大きさの問題から土地を分割しづらい場合や、すでにアパートが建築されている場合などは、兄弟のどちらかが相続し、もう一方に相応額の金融資産で代替するという「代償分割」という方法を検討することをオススメします。